
NU【 ヌ 】
* 神戸の郊外、新興住宅地の中にこの住まいがあります。施主さんの依頼から初めてこの地を訪れた時、見渡す限り建物の無い殺風景な開発地が広がっていました。囲んでいる周りの隣地は、計画の気配すら感じられないぐらい。時間的な猶予が普段よりもあったのですが、計画を進める間にビンゴゲームかのように建物が埋まって行き、当初は荒涼とした中にポツンと建っていたイメージが、あれよあれよと崩れて行く様に計画とは別なところで驚いたものです。おそらく同じ区画の中では、最後の住宅工事だった気がします。
事務所に若い施主さんが来られた時、まだ独身でした。新居が出来る頃に結婚する予定と伺いながら、他の物件のオープンハウスなどに時折、婚約者の方とご一緒に来られました。しかし、計画中に打合せに来られるのはほぼご自身だけ。どんどん個性の強い住まいになる経緯のなかで、設計者としてお連れ合いの意見は? 入居されてお二人ですまわれる様子を確認するまで、気を揉みながら進めたのが今は懐かしく思えています。
* 施主さんから頂いた要望には、「コンクリートを使いたい」「今しかできないコト」「普通の家に見えない方がイイ」そんな言葉が連なり、そして「薪ストーブは必ず入れたい」。お仕事柄、打合せ中はいろいろな素材の話に特に興味を持たれ、ならば必要以上な仕上は施さず、素材だけで存在感のあるものにしたいと思い描きながら計画を進めています。この案に決定されるまで思い切った案もいくつかあったと思いますが、なかなか首をタテに振ってもらません。数ヶ月のアイデアを破棄しエイヤ!と最後に提案したのがこの住まいです。案の中一番、床面積の小さいものとなりました。インテリアとしてコンクリートの面を見せ、それなりに組み立てる方向もあったとは思います。しかし、予算の限られるなかでも、もっとストレートにやってみたい設計者としての思いに、施主さんの最後の決断は驚きを隠せない嬉しさがありました。
* この住まいは見たままに小さなものです。駐車スペースの上に納戸となる小部屋が別にあるだけで、ほぼワンルームに近い間取りになっています。リビングダインングとベッドスペースも家具で仕切られているのみ。玄関も下駄箱と食器棚を兼用している家具で仕切られているのみです。南の庭に面する一画に、バス・トイレスペースをブースの様に配置しています。(実際の使用時にはブラインドを降ろせる様になっています。)
北側の立面は、ガルバリウム鋼板の波板をパネル状に配置してあり、ひとつ置きに建具となっています。両端2ヶ所は外部に出られ、中間2ヶ所の建具は雨戸になり、中側の小窓で南北の風抜きに使えるようにしています。裏の南面はほぼ全面がサッシで構成され、コンクリートの床面と砂利敷の庭とが一体的な雰囲気を醸し出しています。
床面はウレタン塗装をかけたコンクリートですが、蓄熱式の床暖房設備を床版に配置し、夏はヒンヤリとした床、冬はほのかに暖かい床となります。床の仕上りについては好みの分かれるところですが規模の小ささも一因し、設備的には無駄の無い効率的なものになりました。
天井(屋根)は米松材と鉄筋を組みあせた張弦梁となっています。
* キッチンを始め、水廻りの洗面台や手洗い台は、鉄、ステンレスといった素材で通しています。またそれぞれに違う仕上を施しました。洗面と手洗のボールは市販のキッチンボールです。施主さんに買って来ていただいたものを加工して取付けています。
駐車スペース上の納戸の入口から見れば、家具の天面を見ながら家全体の様子が分かります。また納戸から屋根の上に上がれる様にもなっています。
施主さんの思い切り良さがそのまま建物に現れたような住まい。現場の職人さんたちには随分不思議がられましたが、段取りの難しい工事を丁寧に進めて頂けました。監督さん、施工に携われた方々に感謝いたします。
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このページの写真:庄司(P_kan)
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